【138】 安倍内閣の役割                     2007.09.10
  − 「戦後レジウムからの脱却」の重大さが 国民に理解されていないジレンマ −


続出する政治とカネの問題
 「人心一新、実行力内閣」を掲げた安倍改造内閣がスタートして10日間、新しい内閣の門出に期待して10%ほどアップした内閣支持率であったが、すでに遠藤農水大臣が補助金の不正取得問題で辞任したのをはじめ、これでもかというほどの問題が続出している。
 一例を見れば、現閣僚で鴨下一郎環境相…800万円の入金誤記、増田寛也総務相…寄付金100万円を記載ミス(知事時代)、高村正彦防衛相…議員会館(家賃無料)を「主たる事務所」としながら3年間で約3000万円の事務所費を計上、若林正俊新農水相…理事長を務めていた基金の経費で政治団体のパーティー券を購入し、その団体から献金を受けていた、上川陽子少子化担当相…貸付金6月の時点で約968万円、03年11月時点で約1118万円、05年9月時点で約798万円の記載漏れなどが槍玉にあがっている。
 さらに、官邸行政官や与党執行部も含めて、坂本由紀子外務政務官(辞任、自身が代表を務める党参院選挙区支部と同氏の後援会が同一の会議費を政治活動費として多重計上)、岩城光英官房副長官(自身が代表を務める党参院選挙区支部と同氏の資金管理団体がパーティー券収入を政治資金収支報告書に「寄付」として記載)、荻原健司経済産業政務官(自宅の電気代を自ら代表を務める党参院比例支部の光熱水費に計上)や、額賀福志郎財務相・岸田文雄沖縄北方相・二階俊博自民党総務会長らも問題を取りざたされている。
 すでに自民党を離党しているが、玉沢徳一郎前衆院政治倫理審査会長(03年分の政治資金収支報告書に、通し番号が同じ領収書のコピーを多数添付。一枚の領収書で五重計上)なんて、むしろそのダイナミックさにあきれてしまう。
 思いつくだけでもこれだけの事例…、やっばりウンザリといったところだが、振り返って考えてみれば、これまでの政治家の収支報告はこれで十分だったのである。故松岡農水相の高額水道光熱費を発端に、マスコミが閣僚の政治報告収支をいっせいに精査し始めたところ、今までがいい加減で通っていたのだから、当然、収支の合わないものが随所に見つかったという図式である。決して不祥事政治家の肩を持つわけではないが、「何を今さら…」というのが、彼らの本音だろう。
 

問われる官邸の危機管理の甘さ
 現時点でこの問題を考えてみると、いい加減な政治家の収支報告の実態が浮き彫りにされたということは、大きな進歩であると評価しなければならない。政治家の活動を資金面からも白日の下にさらして、管轄下や利害関係のある企業団体からの献金などや、月額100万円が支給されている文書交通費(地方議員の政務調査費、市町村会議員20万〜都道府県会議員60万円ほど)を厳しくチェックすることは、政治の腐敗・癒着を防止するのに大きな効果を認めることができる。
 が、同時に、内閣を守る官邸の危機管理体制の甘さも憂慮すべきであろう。各大臣を任命する際のいわゆる身体検査の甘さは、すでに指摘されているところだが、遠藤農水大臣の辞任で打ち止めとする方策をなぜ取れないのか。総理周辺の政治力の低下が気がかりである。
 
 
安倍内閣の役割
 政治とカネの問題は重大であり、議員の品格…延(ひ)いては政治の浄化にかかわる事柄だから、閣僚や政務官だけでなく、与野党の全議員について大いに公開身体検査を行ってもらいたい。
 ただ、角を矯めて牛を殺すような、部分を直そうとして肝心な根本を損なうことがあってはなるまい。すなわち、戦後レジウムからの脱却を目指す安倍内閣の改革を頓挫させてはならないということを、再確認したいのである。
 率直に言って、戦後の日本を縛ってきたいわゆる東京裁判史観…自虐史観を払拭することの重要さを、戦後の平和な日本に育ってきた日本人は全く理解していないのではないか。私は常々、「日本のすべての問題の根幹は教育にあり、日本に求められている答えのすべては教育にある」と言い続けてきたが、「教育の問題点の根源は東京裁判史観にある」とさらに付け加えるべきであろう。すなわち、現今の日本の全ての問題点は大東亜戦争の敗戦による占領政策に起因していて、それらを総括し糺すべきを糺して、正しい日本観を構築することが、今日の日本の課題なのである。


戦後史観からの脱却
 戦後60余年を経て、中国・韓国を初めとする反日勢力から戦争犯罪を糾弾され、正しい歴史の検証を怠ってきた日本はただ謝罪と補償を繰り返す日々であった。
 戦後の日本に、大東亜戦争は日本の侵略戦争であり、占領した中国・韓国・東南アジアなどにおいて多くの戦争犯罪を犯したという定説が植えつけられたのは、占領下にGHQから出された30項目の禁止事項(1.GHQへの批判、2.東京裁判への批判、3.憲法起草の批判、5〜11.アメリカ・ソ連・イギリス・朝鮮人・中国・その他の連合国への批判、12.満州における日本人の取り扱いへの批判、… 戦争擁護・神国日本・軍事主義・大東亜共栄圏などへの言及や宣伝、戦争犯罪人の正当化と擁護 などの禁止)…によって、昭和20〜27年の間、日本は自らの手で歴史の真実に向き合うことは許されず、一切の自己主張をすることが許されなかったからである。
 マッカーサーは昭和20年12月15日の「神道令」で「大東亜戦争」という用語の使用も禁止し、スミス准将は12月8日から全国紙に、連合国から見た戦記「太平洋戦争史」の連載を命じている。この中で「南京(南京大虐殺)やマニラ(バターン死の行進)」での残虐行為を取り上げ(もちろん多くは検証された事実ではなく、中国からの一方的な申し出や風聞を寄せ集めた、戦勝国からの判断を下したもの)るなどして、日本人の太平洋戦争史観が形成されていったのである。
 「歴史を失った民族は哀れである。新しい歴史を捏造して上塗りしていけば、間もなくその民族は過去の記憶を失い、誇りを失い、祖国を失う」。犯罪集団であった祖先を敬愛することはできないし、恥辱にまみれた祖国を愛することはできないことだろう。しかし、正しい歴史を見つめれば、日本は戦争犯罪国家ではなかったことが明らかなのである。


国民生活に色濃く残る自虐史観
 戦後の敗戦国史観は、土下座・謝罪の政治・外交だけでなく、教育・文化、そして国民個々の精神性を含めて、国民生活の隅々まで深刻な影を落としている。
 周知のように、戦後日本の学校教育GHQの指導の下で作った学習指導要領に基づき、現
場は日教組に加入する教師集団がイニシアティブを取ってきていて、マルクス・レーニン主義に基づくイデオロギー教育を繰り返していた。そこで教える事柄は、当然、自虐史観に支配されたものとなり、大東亜戦争を侵略と定義して南京大虐殺・慰安婦・東南アジアへの出兵を犯罪行為と断じる反面、列強のアジア進出を阻止して中国・韓国の権益を守った日露戦争は教科書にもほとんど行数を割いていない。
 国語の授業時間は削減される一方で、名作・古典と言われる教材が姿を消していく。音楽の教科書からは「荒城の月」がなくなってしまった。戦後教育に染まった人たちが社会の中枢を占めるようになり、教育関係の学会を形成する有識者たちの意識からも、日本の伝統が欠落してきていることの現れであろう。
 家族の崩壊、倫理観の喪失、非行の低年齢化、社会の荒廃…など、戦後の日本人が失った精神性が大きな要因に挙げられる問題は多い。
 今もテレビで社会保険庁や市町村の職員による年金横領を伝えている。判明分の社保庁50件、市町村職員44件の合計横領額は3億4300万円だが、実額はこの10倍はあるだろうと言っている。いつの世にも悪事を働く小役人は存在したけれど、ここまで多くの職員が悪事に手を染め、しかも役所の組織そのものが年金流用という詐欺行為を誇らしげに取得権益として掲げているのをみると、やはり官吏としての精神性・倫理観・矜持が地に堕ちていると考えるしかない。日本人が持続してきた『恥の文化(=名こそ惜しまん)』はどこへ行ったのか。
 

「戦後レジウムからの脱却」の重要性
 今、日本の戦後を総括して、日本の歴史を取り戻し、民族の誇りを再確認し、教育や文化や日本の形を再構築することは、極めて大切である。
 日本のこの部分が確立しなければ、対外援助は賠償になり、技術協力は贖罪のための奉仕になる。国のために戦い死んだ、私たちの父や祖父は犯罪者なのか、またはその片棒を担いだのか。日本国民は子孫に語るべき歴史を持たず、愛する祖国をさげずまねばならないのか。アジアの砦として、初めて西欧列強の侵略を食い止め、世界史に残る偉業を成し遂げた民族ではなかったのか。日本の今日の繁栄は、アジアの人々の血と汗の上に築かれた、罪深いソドムとゴモラなのだろうか。
 「戦後レジウムからの脱却」は、日本が将来に向かってその一歩を踏み出していこうとするとき、常に付きまとう足かせであり、克服しなければならない命題なのである。
 


 安倍晋三にしかできないことではないから、首相の首を据え変えて、余人に担当させればよいという議論もあるだろう。しかし、「戦後レジウムからの脱却」を政治テーマとして高々と掲げ、この命題に正面から取り組もうとしたのは、安倍晋三であった。「生活が第一」などは当たり前のことで、そんな政治課題とは次元が違う問題なのだ。
 かねてから言ってきたように、私は自民党長期政権の間に溜まった政官界や社会の塵芥をきれいにするためにも、政権交代が必要であると主張してきた【参照 2002 2003 2006 など】。政治とカネ、年金問題などが、次々と明らかになってきているのも、参院逆転の効果であろう。
 しかし、教育基本法・関連3法の改正、国民投票法、イラク・在日米軍支援特措法、公務員改革法、少年法改正など、大きな道筋のもとに進めてきた安倍内閣の政治改革を、ここで頓挫させることの損失を思うと、安倍内閣にはあと2年… 少なくとも1年半は頑張ってほしいのである。


 おっと、ここで(09.10.am04:40)オーストラリアのシドニーから、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席している安倍首相が閉会挨拶の演説で、「(大西洋上の連合軍への給油を継続するよう)職を賭してこの問題に取り組む」と述べたと、「日テレNEWS24」が伝えている。 給油継続がだめなら内閣総辞職も…というニュアンスである。民主党を追い込むための一言か、不退転の決意を示して自民党を引き締めるためか…。しかし、辞職に触れるとは…、いずれにしても、またまた「若殿ご乱心」と家老たち重臣はビックリ仰天…、収拾に追われることだろう(苦笑)。


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